今回は、番外編ということで、気になるニュースについて。
8月29日、「妊婦の血液を調べて胎児がダウン症かどうかを99%の精度で診断する検査を、国立成育医療研究センター(東京)と昭和大(同)が来月にも始める方針を決めたこと」。そのことによって人工妊娠中絶が促進されるのではないかという話です。医学的な詳細は知りませんが、近い将来生まれてくる子どもに障害があることを知って、心穏やかな親はいないでしょう。
なぜ、私がこの記事に気にかかるかという理由は、ダウン症の人たちのアートアトリエを運営している友人を通して、彼らの人としての魅力や優しさ、そして彼らが生み出すアートの素晴らしさに触れているからかもしれません。
そのアトリエは、「アトリエ・エレマン・プレザン」といい、東京・経堂の住宅地にある一軒家を舞台に活動しています。毎日、決まった時間にダウン症の人たちがやってきて、絵を描いたり、立体作品をつくり出します。彼らは、世の中のトレンドや売れ筋といったことに頓着せず、自分の興味の対象やこだわりを素直に追求します。それらは目も覚めるような美しい色彩と画面から飛び出してくるような躍動感ある線や面で表現された、言葉だったり、家の間取りだったり、あるいは植物だったり、対象を徹底して追及しています。たまに訪問すると、明るく、熱く、創作について語ってくれるのです。そう、彼らは立派なアーティストであり、デザイナーです。
アトリエでは、展覧会を企画したり、彼らの作品を病院アートとして貸し出したり、あるいは彼らの素晴らしグラフィックスを活かしたステーショナリー、Tシャツや手提げなどの雑貨づくりにも取り組み始めています。写真は、「楽しくね」「ありがとう」「すてき」など、心をホッ温めてくれる言葉をハガキにしたもの。こんなハガキで「ありがとう」の気持ちを伝えられたら、すごくうれしいですよね。
8月末から9月には、ロンドンでパラリンピックも開催され、競技者たちが素晴らしいパフォーマンスを披露してくれました。その様子を見ると、義足や車いすなど、彼らをサポートするために、素晴らしい道具や技術が開発され、それが未来を切り開く原動力になっています。科学技術は時として人間の存在を阻害するベクトルに向くことがありますが、それを使い、活かしていくのも人間。妊婦の血液検査が、大きな創造性を秘めているダウン症の人たちに影を落とさないことを祈るばかりです。
関 康子
デザインエディター、トライプラス代表 デザイン誌『AXIS』編集長を経て、フリーランスのエディターとして活動。2001年にはトライプラスを共同設立し、「good design for children」を目標に、子どもの「遊び、学び、デザイ ン」のための商品開発、展覧会・出版企画・編集にもあたる。2011年、「倉俣史朗とエットレ・ソットサス」展(2121DESIGN SIGHT)で、ディレクターを務める。女子美術大学非常勤講師。 著書に『世界のおもちゃ100選』(中央公論新社)、AERA DESIGN『ニッポンのデザイナー100人』『ニッポンをデザインした巨匠たち』(共著、朝日新聞社)、『超感性経営』(編著、ラトルズ)、「倉俣史朗とエットレ・ソットサス」(編著)など。